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現代の核爆弾とは、原子爆弾のことをいう。水素爆弾や中性子爆弾は、今では対費用効果の観点からほとんど実戦配備されていない。そして原爆には、プルトニウムを利用したタイプと、濃縮ウランを利用したタイプの2種類がある。製造方法と爆発機序が根本的に違う。この点は、1940年代から今に至るまで基本的に変わっていない。
原題のFat Man and Little Boyのうち、ファットマンとは長崎に投下されたプルトニウム型原爆を指す当時のあだ名で、リトルボーイとは広島に投下された濃縮ウラン型原爆を指すあだ名だった。両方とも爆弾の外見から、こんな滑稽なあだ名で呼ばれた。そして、この滑稽な名前の2つの爆弾は、今から64年前、一瞬にして数十万名の生命を地上から消し去った・・・。
本作は、この2つの原爆を開発したマンハッタン計画を率いた二人の米国人を主人公としている。一人は、政治的・軍事的リーダーシップをふるったレズリー・グローブズ陸軍准将(ポール・ニューマン)、もう一人は技術的リーダーシップをとったロバート・オッペンハイマーである。本作を観ると、この二人のいずれが欠けても、米国の原爆開発が「成功」しなかったことがよく分かる。
当時はナチスドイツも同様の計画を進めており、ドイツがこの技術を西欧地域に対して使用したり、もしくはソ連に技術が漏れる懸念もあったようだ。そういう意味で、二人は異常なプレッシャーの下で仕事をしていたのだが、それを上回るほどの異常な集中力で、二人は短期間のうちに計画を「成功」に導いた。本作は、その緊張感溢れるプロセスを、関係者の人間模様も交え、丁寧に描いている。
歴史にifはない。しかし、もし米国が原爆の開発に先行しなかったら、ナチスドイツが欧州で、さらには世界で覇権を握っていた可能性は否定できない。さらに、もしソ連が先行していたら、日本も共産圏に組み込まれ、結果的に北朝鮮のような国家体制になっていた可能性も否定できない。
だからといって、どこかの政治家のように米国が日本に原爆を投下したことを肯定するつもりはない。しかし、当時の原爆の開発状況は、極めて切迫した時間的問題であり、米国がマンハッタン計画で原爆を開発しなくても、どこかの他の国が開発に成功していたことだけは、間違いのない事実のようだ。
そういう意味で、ともに強烈な独裁国家だったドイツやソ連ではなく、民主主義と資本主義(自由市場主義)を標榜する米国が原爆の開発に先行し、結果的に戦後世界の覇権を握ったことは、世界にとってそれほど不幸なことだったかどうかは熟考する必要があるだろう。また、当時の日本が、当時のドイツやソ連とタメを張るほどの超独裁国家だったことも考慮しなければならない。
また、8月6日、8月9日がめぐってくる。こういう問題を改めて考える良い機会かもしれない。