月別アーカイブ: 2009年7月

シャドー・メイカーズ   Fat Man and Little Boy

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現代の核爆弾とは、原子爆弾のことをいう。水素爆弾や中性子爆弾は、今では対費用効果の観点からほとんど実戦配備されていない。そして原爆には、プルトニウムを利用したタイプと、濃縮ウランを利用したタイプの2種類がある。製造方法と爆発機序が根本的に違う。この点は、1940年代から今に至るまで基本的に変わっていない。

原題のFat Man and Little Boyのうち、ファットマンとは長崎に投下されたプルトニウム型原爆を指す当時のあだ名で、リトルボーイとは広島に投下された濃縮ウラン型原爆を指すあだ名だった。両方とも爆弾の外見から、こんな滑稽なあだ名で呼ばれた。そして、この滑稽な名前の2つの爆弾は、今から64年前、一瞬にして数十万名の生命を地上から消し去った・・・。

本作は、この2つの原爆を開発したマンハッタン計画を率いた二人の米国人を主人公としている。一人は、政治的・軍事的リーダーシップをふるったレズリー・グローブズ陸軍准将(ポール・ニューマン)、もう一人は技術的リーダーシップをとったロバート・オッペンハイマーである。本作を観ると、この二人のいずれが欠けても、米国の原爆開発が「成功」しなかったことがよく分かる。

当時はナチスドイツも同様の計画を進めており、ドイツがこの技術を西欧地域に対して使用したり、もしくはソ連に技術が漏れる懸念もあったようだ。そういう意味で、二人は異常なプレッシャーの下で仕事をしていたのだが、それを上回るほどの異常な集中力で、二人は短期間のうちに計画を「成功」に導いた。本作は、その緊張感溢れるプロセスを、関係者の人間模様も交え、丁寧に描いている。

歴史にifはない。しかし、もし米国が原爆の開発に先行しなかったら、ナチスドイツが欧州で、さらには世界で覇権を握っていた可能性は否定できない。さらに、もしソ連が先行していたら、日本も共産圏に組み込まれ、結果的に北朝鮮のような国家体制になっていた可能性も否定できない。

だからといって、どこかの政治家のように米国が日本に原爆を投下したことを肯定するつもりはない。しかし、当時の原爆の開発状況は、極めて切迫した時間的問題であり、米国がマンハッタン計画で原爆を開発しなくても、どこかの他の国が開発に成功していたことだけは、間違いのない事実のようだ。

そういう意味で、ともに強烈な独裁国家だったドイツやソ連ではなく、民主主義と資本主義(自由市場主義)を標榜する米国が原爆の開発に先行し、結果的に戦後世界の覇権を握ったことは、世界にとってそれほど不幸なことだったかどうかは熟考する必要があるだろう。また、当時の日本が、当時のドイツやソ連とタメを張るほどの超独裁国家だったことも考慮しなければならない。

また、8月6日、8月9日がめぐってくる。こういう問題を改めて考える良い機会かもしれない。

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グアンタナモ、僕たちが見た真実  The Road to Guantánamo

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2001年の同時多発テロの直後、パキスタン系英国人の若者数名が、結婚を決めるという超個人的な理由で、たまたまかつての母国に渡った。現地でちょっとした冒険心がもたげ、彼らは陸路でアフガニスタンに入り、国際紛争の最先端を自分の目で見ようとする。

しかし、運悪く戦闘の只中に突っ込んでしまい、多国籍軍からタリバンと間違えられて身柄を拘束されてしまう。挙句の果てには、他の容疑者とともにキューバのグアンタナモ米軍基地へ強制送致され、散々な目に遭う。本作は、そんな実話をベースにした英国映画だ。

米軍や情報機関のエリートたちは、髭を生やした浅黒い顔をした男たちを片っ端から捕まえては、一人ひとり「お前はオサマ・ビンラディンの知り合いだろう」、「居場所を吐け」と恫喝する。それも行き当たりばったりというより、自分たちなりに考えて「本気」で尋問するのである。

そんなに簡単にビンラディンの「知り合い」が見つかるわけがない、まず組織の背景を徹底的に調べよう、といった深謀熟慮のカケラもない単純さ。しかし、この荒唐無稽とも言える単純さが、いかにもアメリカ人的であり、それなりのリアリティを感じさせる。

アメリカは、たかだか建国200年あまりのポッと出の若い国だ。それだけに、アメリカ人というのは総じて、長い複雑な歴史を持つ他国の本質を理解することが苦手だ。自分を見る単純なレンズでしか、他者を見れない弱点がある。

たとえば、かつてベトナム戦争でも、北ベトナム指導部は当時の冷戦構造に乗じて、ソ連や中国を利用することによって、民族独立という本来の目的を達成したわけだが、アメリカはベトナムがソ連や中国の駒として利用されていると、複雑な現実を単純な冷戦の代理戦争の枠組みだけで捉えてしまい、見事に負けてしまった。

しかし、このアホみたいな単純さは、同時にアメリカの強みでもあるように思う。複雑な現実を徹底的に単純化、記号化し、あらゆる雑念を排除して、最小の資源から最大の利益を導き出すことにかけては、天才的な才能を持っている。建国200年余りで、一種の未開地を世界最大・最強の覇権国に変えてしまったのは、そんなアメリカの特殊な才能によるところが大きいだろう。

話がやや脱線したが、今後の対テロ戦争の帰趨は、この単純さが凶と出るか、吉と出るかによるのではないか、なんてことをこの映画を観て感じました。しかし、米軍の扱いも相当ひどいが、あのパキスタンの若者たちも相当の若気の至りだ。生きて帰ってこれたのは、奇跡としか言いようがない・・・。

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ギルバート・グレイプ  What’s Eating Gilbert Grape

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有名な映画なので、観た人も多いと思う。私も昔一回だけ観たのだが、今回改めて見直してみて、やはり味わい深い映画だと思った。この映画で、私が個人的に強い印象を受けているのは、グレイプ家の知恵遅れの次男アーニーを演じるレオナルド・ディカプリオの演技。

グレイプ家は、アイオワ州のはずれの小さな町に暮らしている。長男ギルバート(ジョニー・デップ)は、父親のいない家族の全てのプレッシャーを一身に背負って暮らしている。父親が急に命を絶ったために、母親は精神の均衡を崩し、過食症になった。そして、近所の笑いものになるほど、異常な肥満体となって家に閉じこもっている。

妹の長女は唯一、ギルバートとともに一家の重荷を背負っているが、その下の次女は未だ反抗期だ。次男アーニーは知恵遅れで、ギルバートにとってかけがえのない愛情の対象ではあるが、とくに大きな重荷になっている。

そこへトレーラーで移動する少女と、その祖母が通りかかる。トレーラーが故障し、しばらく街に滞在するうち、少女との交流を通して、ギルバートにも小さな心の変化が訪れる・・・。そんなストーリーだが、やはりこの映画の最大のポイントは次男アーニー(ディカプリオ)の存在だと、私は個人的に思う。

アーニーは、母親にMy Sunshineと呼ばれ、とくに愛情を注がれている。ギルバートも姉妹もアーニーを愛している。アーニーは18歳にもなって、一家に様々な迷惑をかけるのだが、それでも家族はアーニーを愛してやまない。この映画の凄いところは、ときおり母親以外の子供たちが、「アーニーさえいなければ・・・」と時々思ってしまうような人間のおぞましい側面も、しっかり描いているところだ。

ディカプリオという人は、タイタニックでイケメン俳優としてのイメージが定着したが、やはり才能豊かな演技派俳優だと思う。それも本作を観ると、その才能が尋常でないことが良く分かる。長男ギルバート演じるジョニー・デップ主演の映画だが、本当は次男アーニーが主人公であるように感じる。ディカプリオの演技力を味わえるとともに、いわゆる「健常者」と、そうでない人の関わり方、また人間の本当の価値とは何か、ということまで考えさせられる映画である。

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アメリカン・ヒストリー X   American History X

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この映画が高い評価を得ているのは、前から知っていた。しかし、バイオレンス物ということで敬遠していた。しかし今回観てみて、その考えが覆された。たしかにバイオレンス・シーンはある。しかし、アメリカとは何か、人間社会とは何かといった普遍的な問題について、現実的な問題提起をしており、大変クオリティの高い社会派映画だと認識を改めさせられた。

主人公デレクは、筋金入りの白人至上主義者。胸に大きなカギ十字のイレズミを入れ、白人至上主義組織の頭領として、ロスのダウンタウンの一角を仕切っている。黒人、ラテン系、ユダヤ人を、これでもかと罵り、徹底的に差別する。挙句の果てに、自宅を襲った黒人の車上荒らし数名を射殺、惨殺する殺人事件を起こす。しかし、数年後に出所したとき、彼は別人のように真っ当になっていた・・・。

事件前のデレクの言動がすごい。これでもかと、白人以外の人間を虫けら扱いして大声で罵る。とくにデレクの自宅の食卓で繰り広げられる議論(暴論?)のシーンは圧巻。黒人、ユダヤ系のお陰で、優秀な白人が失業する、社会的機会を奪われる、だから虫けらは出て行け!うせろ!消えろ!○×△$#&・・・!

しかし・・・、私はアメリカで暮らしていたことがあるのだが、もし仮にアメリカという国が、日本のような「普通の国」だったら、ある意味でデレクの言動はそんなに異常ではないと思うのである。たしかに、アメリカは移民に対してとても寛容だし、少数派(マイノリティ)を優遇するアファーマティブ・アクションなる「平等」施策を社会に広く適用して、学校や職場では、多数派(白人とかのマジョリティ)を押しのけてマイノリティが優先的に入学、就業する光景が日常茶飯事のように繰り広げられている。これに白人が怒り狂ったとしても、それほど異常なことではないと思う。

しかし・・・、アメリカという国は「移民の国」なのである。国の成り立ちからして、ヨーロッパのいじめられっ子のプロテスタントが、命からがら祖国から逃げ出して創設した国であって、建国後も、政治的自由、経済的機会を人間の普遍的人権として標榜し、それを世界で初めて憲法で法的に保障し、世界中のいじめられっ子を積極的にガンガン受け入れ、人間社会の理想を実現してきた、ある意味で大変マジメで立派な国なのである。

したがって、ここから繰り出される結論の一つは、「アメリカ人」というのは、特定の人種、民族、思想、価値観で規定される概念ではなくて、「アメリカの国籍を取った人」でしかないということだ。その意味で、「アメリカ人」、「アメリカ社会」の定義や概念というのは、今この瞬間も現在進行形で変化しており、それをストップモーションのように止めて保守的に堅持しようとするならば、それはアメリカという国の根本精神を否定する行為にさえなりかねないのである。

そして、もしそういうアメリカ人がいるとしたら、その人は自分がアメリカ人であることに自己矛盾を来たしているとさえ言えるということだ。その意味で、事件前のデレクの言動は、アメリカ以外の国の国民としては一理あったとしても、アメリカ人としては完全に的外れであり、それゆえに破綻を来たしたともいえるだろう。

一方、この映画のテーマは、アメリカとは何かというテーマから、人間社会とは何かという巨大なテーマにさえ肉薄しているような気がする。アメリカという国は、いろいろと批判される国でもあるが、何といっても自由と平等という理想を本気で追求するだけでなく、それを現実に実行(強行)している国でもある。

自由や平等というのは、実際に剥奪されてみないと、その本当の有難みを実感できないかもしれないが、これはまさに人間の基本的人権の中核を成す構成要素と言えるだろう。アメリカは、そんな人間の基本的人権を、極限まで保障しようと試みる試験管ベビーならぬ、試験管国家なのである。

本作は、そんなアメリカの限界と可能性、ひいては人間社会の限界と可能性を描いているような気がした。 ― なんて言ったら言い過ぎだろうか。久々に映画らしい映画を観ました・・・。

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不都合な真実  An Inconvenient Truth

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元アメリカ副大統領、元アメリカ大統領候補のアル・ゴア氏は、昔から地球温暖化問題の専門家として有名だった。そのゴア氏が行った温暖化に関するプレゼンを収めた映画である。観た人の多くが認めている通り、この人は実にプレゼンが巧く、プレゼンの良い勉強になる。

一方、ここで語られる話が本当に「真実」かというと、それはまた別の話だろう。ふつう真実というのは、一般的には、1%のウソもない100%純粋に本当の話をいう。そういう意味で、ここでゴア氏が語っている話が真実かどうかというと、簡単にそうとは言い切れない。

かつて前大統領のブッシュ氏と、ゴア氏が米大統領選で激突した際、ブッシュ陣営は、様々な「科学」的論拠をベースにして、ゴア氏の説く温暖化問題、ひいては温暖化の論点一般を徹底的に否定し、骨抜きにすることを試みた。当時はこうしたアンチ温暖化の著作がいくつか邦訳されて、日本の書店にもたくさん並んでいた。その後、ブッシュ氏は政権を握り、その独自の「科学的論拠」を利用して、京都議定書の発効に向けての世界的な温暖化防止の動きを阻止しようと全力を尽くした。

ブッシュ前大統領が、なぜこれほどまでにアンチ温暖化の立場を貫いたかというのは明白だ。彼が、石油の利権を利用して、政治家として上り詰めた人物だからである。もともとファミリーも本人も石油採掘会社を長く経営してきたし、石油が潤沢に埋蔵・採掘されるテキサス州知事だったし、そこに政治的基盤があった人なのである。そういう意味で、ブッシュ氏は実に分かりやすい人物であった。

一方、温暖化防止を推進する政治家というのは、どこか良い人のようなニュアンスが漂うが、そこにはまた別の巨大な利権が存在する。温暖化防止を推進すると、結果的にどういうことになるかというと、太陽電池を作る電機メーカー、ハイブリッド車を作る自動車メーカー、原発の利権関係者などに、どっと大金がなだれ込む。こういうところに関与する政治家やビジネスマンは、果たして善意のボランティア精神で温暖化防止を推進しているのだろうか。

おそらくゴア氏の最大の弱みは、政治家、それも民主党の重鎮といった巨大権力者であることだろう。そういうパワーゲームの中心にいる人が、純粋に自分の信念だけで、ここまでできるのだろうか。 ― もしかしたら、ゴア氏はそういうマジックのようなことができる卓越した人物なのかもしれない。またゴア氏のプレゼンの内容も、果てしなく真実に近いものなのかもしれない。しかし、ゴア氏の政治的権力はあまりに巨大で、そういうものを疑わせてしまう反作用の力として働いている。

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