月別アーカイブ: 2009年5月

ブリット   Bullitt

ブリット [DVD]
ブリット [DVD]

posted with amazlet at 10.12.30
ワーナー・ホーム・ビデオ (2010-04-21)
売り上げランキング: 4117


スティーブ・マックイーン演じる刑事ブリットが、マフィアの情報屋の護衛を政治家に頼まれる。議会の公聴会に連れて来て、マフィアの全貌を喋らせるためだ。しかし、この情報屋はヒットマンにいとも簡単に殺されてしまう。背後に何か裏があると感じたブリットは、執拗な捜査を開始する・・・。

1968年制作。やはりこの時代の映画は凄い。カメラワーク、カット割り、セリフ回しが凝っていて、テレビドラマなどと一線を画した映画らしい映画という感じ。確かに古い映画で、時代を感じさせる側面はあるが、精魂込めて作った映画は、年月を経ても輝きを失わない見本のような映画。

それにしても、スティーブ・マックイーンというのは、不思議な役者だ。ただ普通の表情をして立っているだけで、周りを黙らせる迫力と威厳がある。

コワイ顔をしているわけではない。大声を出して威嚇するのでもない。ただそこにいるだけで、周りを黙らせる力を持っている。こういう役者は、今はいない。本当に惜しい役者を亡くしたものだ。享年50歳だった。

人気ブログランキングへ

再会の街で  Reign over Me

再会の街で [DVD]
再会の街で [DVD]

posted with amazlet at 10.12.30
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント (2009-09-02)
売り上げランキング: 46050


歯科医アラン(ドン・チードル)は、あるとき街中で変わり果てた姿の大学の同窓生チャーリー(アダム・サンドラー)を見かける。チャーリーは、911同時多発テロで家族全員を失い、精神の均衡を崩していたのだった。そこから、アランを含む周囲の人々が、チャーリーの人生の再起のために心を砕く物語が始まる。

心を病んだ人を立ち直らせるためには何が必要なのか、ということを考えさせられる映画である。この問いかけは、誰でも心の中に病んだ闇の部分があるから、万人共通の課題なのかもしれない。人を幸せにするためだけでなく、自分が真の意味で幸せになるためにも、問いかけられている課題ともいえるだろう。

本作の課題はそんなところだが、結末では、その答えも出ているように感じた。ドン・チードルは、オーシャン・シリーズでも活躍しているが、本作やホテル・ルワンダのように、良識ある大人を演じるとピタリと役にはまる。音楽も良いです。

人気ブログランキングへ

大いなる陰謀  Lions for Lambs

大いなる陰謀 (特別編) [DVD]
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン (2010-06-25)
売り上げランキング: 5657


もはや何も言うまい、洋画の邦題については・・・。これも、原題の意図を外した邦題になっている・・・。最初に言っておくと、本作に「陰謀」は存在しない。

Lionsとは賢者、Lambsとは愚者のこと。前者は良識と勇気ある一部の国民を指し、後者は国を動かす政治家と官僚のことを指している。具体的には、政治家が始めた対テロ戦争に、国民がどのように関わってきたか、またどう関わるべきかということを言っている。

政治家が、自分をアピールするために不要な戦争を推進するのは、古今東西変わらない。そこで、こういう愚策に、国民がどう向き合うかが問題になる。ただ、シラけて無視するのか、それとも能動的に関わって現状を変革しようとするのか、どちらの態度を取るべきかというのが本作のテーマのようだ。

戦場の教え子を見守る大学教授にロバート・レッドフォード、対テロ戦争の新戦略を取材する記者にメリル・ストリープ、その新戦略を画策する政治家にトム・クルーズという豪華な陣容。この三人が、戦争の政策をめぐって火花を散らす。現代の戦争がどのように行われているのか、実務レベル的な冷めた視点で描いているのも、ハリウッド映画としては新鮮。

人気ブログランキングへ

アメリカを売った男  BREACH

アメリカを売った男 [DVD]
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン (2008-10-03)
売り上げランキング: 43920


これも邦題が痛い。日本の配給会社の皆さん、どうかよろしくお願いします・・・。

BREACHとは、守秘義務の違反、侵害、または裏切りという意味もある。邦題は、たしかに主人公のことをそのまま表しているが、あまりに直球過ぎて、映画のタイトルとして成立していない感じ。

内容は、FBIのベテラン・エージェント、ロバート・ハンセンが20年以上、ソ連とロシアに機密情報を漏洩し続けてきた実話を描いている。実話をベースにした映画というのは、実話ならではの迫力を持っている一方で、どうしても実話から大きく逸脱できないという脚色上の限界を抱えている。本作も、どうしてもそうした限界を感じざるを得ないところがあった。

それにしても感じたのは、この人が信じていたのは何だったのかということ。たぶん、神の教えを装った人の教えだったのだろう。誰でも人の教えを100%信じ込む人はいない。しかし神様の教えを100%信じる人はいる。そして神様の教えを装った人の教えを100%信じ込んでしまう人もいるようだ。

神様の教えと、神様の教えを装った人の教えを識別することは難しいようで簡単だ。それは、聖書から逸脱しているかどうかということだろう。この映画には聖書が出てこない。宗教本のようなものは出てくるが、聖書が出てこない。こういう宗教本にはカルトっぽいものもあるから注意が必要だ。本作の主人公の姿を見ていると、この人がそういうものに心を操られていたのではないかと感じた。

一方、そもそも最初から神様なんかに関わらないで、生きていったほうが健全だという意見もあるだろう。しかし、人が本当の神様を知らないまま、人生を最後まで生き抜いていくことは難しい。それはさまざまな逆境や、とくに病気などで死に直面したときに、具体的に明らかになる。また、別に試練がないときでも、人は自分よりも強いもの、絶対的なものに心を惹き寄せられる性質を持っている。だから、本物の神様を知らないと、ヘンなものに引っかかってしまうリスクに絶えずさらされることになる。

こうした人間の本能的な性質は、人がもともと神様と一緒に生きていくのが本来の姿だということを示しているように思うのだが、だからこそ正しく神様に結びつくための羅針盤が必要になるだろう。そして、その羅針盤は聖書ではないかと思う。本作を観て、そんなことも感じました。

人気ブログランキングへ

ナイロビの蜂  The Constant Gardener

ナイロビの蜂 [DVD]
ナイロビの蜂 [DVD]

posted with amazlet at 10.12.30
日活 (2006-11-10)
売り上げランキング: 16050


他の多くの映画と同様、この映画も邦題がイタイ。原題は、遠まわしではあるが、主人公の本質を的確に示しており、また作品のテーマとも関連がある。これを、そのまま使った方が良かったのではないだろうか。

本作は、利益最優先の巨大製薬企業が、アフリカの人々を半ば人体実験のように治験に使って暴利をむさぼるスキャンダルを、人権活動家で、ケニア駐在英国大使館の外交官の妻が暴こうとしたプロセスを描いている。イギリス外交官をレイフ・ファンズ、その妻をレイチェル・ヴァイスが演じている。

ストーリーの本筋は、悪いものではないように映る。しかし、観終わった後の後味が、どうも悪い。その理由は2つあるように感じた。一つ目は、人道支援にいそしむ主人公の妙な正義感。現代のグローバル社会の下では、先進国の住人である私たちは、自分の意志と関係なく、構造的に途上国の人々の暮らしを踏みにじりながら、豊かな生活を享受している側面がある。もし、この構造的な「弱い者イジメ」を批判するならば、自分もその「弱い者イジメ」に加担している一員である点を自覚しながら批判する必要がある。しかし、本作の主人公にその自覚はない。

二つ目は、自分の家族を大切にしない人が、社会の弱者とも言える人々を大切にしたり、守ったりすることができるのだろうかということ。人間の力には限界があるから、自分の周りの人をどうケアして大切にしていくかということを考えた場合、そこには当然、優先順位が生じる。それはおのずと、家族、友人、地域社会、世界、といった順番になるだろう。もし、誰かが世界の紛争を解決したいという理由で、自分の家族を犠牲にするようなことがあれば、その人は自分の足元で紛争をこしらえていることになるのではないだろうか。

途上国の人々の人権を踏みにじることは許されない。そして途上国の人を助けることは必要だ。しかし、まず最初に自分の足元をしっかり見つめることが大切なのではないだろうか。そんなことを、改めて思わされる作品でした。

人気ブログランキングへ