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オリバー・ストーン監督のブッシュ前大統領の伝記映画。原題「W.」は、ブッシュ氏のミドルネーム、「ウォーカー(Walker)」のイニシャル。たぶん、アメリカ人の多くは、この一文字で誰を指しているか分かるから、こういうタイトルになったのだろう。
オバマ大統領の強烈なカリスマ性と人気に、今やブッシュ氏の存在は完全にかすんでしまった観がある。しかし、人気は時とともに移り変わる。オバマ氏のこれまでの最高の支持率は就任直後の68%だったが、ブッシュ氏は同時多発テロ直後に90%という驚異的な支持率を叩き出した。当時のブッシュ人気は、今のオバマ人気と比較にならないものだった。
本作は、ブッシュ氏の同時多発テロ直後からイラク介入に至るまでの様子を、青年時代の破天荒でヘタレの生き様もところどころ交えながら、心理描写も巧みに描いている。よく知られていることではあるが、ブッシュ氏は、もともと名門に生まれた「ぼんぼん」であり、勉強も仕事もあまりできない、性格的にも欠点の多い人である。しかし、この人には、どこか人を惹き付けてやまない人間的な魅力がある。本作は、そんな等身大のブッシュ氏を、風刺と愛情をもって描いている。
個人的に一番印象に残ったシーンは、酒浸りの生活を送っていたときに、神様に出会って回心する場面。信仰はブッシュ氏の人格の中核を成しているだけに、しっかり描かれている。ブッシュ氏の信仰は、本作ではやや風刺的なコメディ・タッチで描かれているが、それは彼のイラク政策が失敗に終わったからで、結果論だろう。実際には、ブッシュ氏はもっと真剣な態度で祈り、かつ真剣な態度で政策決定に臨んでいたのではないかと思う。
ブッシュ氏を演じたジョシュ・ブローリンの演技が凄い。もともと顔はあまり似ていると思えないが、喋り方や挙動、ちょっとした仕草が、笑えるほどそっくり。これは役者魂と努力の賜物なのだろう。繰り返してしまうが、勉強も仕事もできず、欠点も多いブッシュ氏を、これでもかとばかりリアルに演じている。食事中に口に物が入ったまま、要領の得ない発言を一所懸命繰り返す様などは、まさにブッシュ氏が目の前にいる感じ。こういう飾らない天然さに、人は惹き付けられるのかもしれない。