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非常に考えさせられるところの多い映画である。人間は環境次第で、いかに俗悪に成り下がるかという、誰もが持つ人間の恐ろしい側面を描いている。
ストーリーは、冷戦下の東ドイツにおいて、当時の国家保安警察(シュタージ)が、演劇の演出家と女優のカップルを、やや反体制的であるという理由で、全生活を監視・盗聴するというもの。監視対象の人間の精神構造を崩壊させることによって、体制批判を封じるというシュタージの思考回路に背筋が凍る。
本作の主役は、その盗聴工作を行うシュタージの担当官ヴィスラー大尉。冷酷な秘密警察のサイボーグといった感じのヴィスラーだが、芸術家カップルの盗聴を行うにつれ、ヴィスラーの心に変化が起き、人間そのものを押し潰す社会主義的な独裁体制に疑問を持つようになっていき…。
当時の東ドイツでは、全国民の10%が何らかの形でシュタージに協力していた(協力せざるを得ないように脅されていた)というから、すさまじい監視体制だ。ベルリンの壁崩壊後、シュタージの全貌が暴露され、自分の夫や妻、親や子、上司や部下がシュタージの協力者だったことが明らかになったことで、旧東ドイツ社会は大混乱に陥り、なかには精神を病んだ人もいたという。
ヴィスラー大尉を演じたウルリッヒ・ミューエは、本作公開の翌年2007年に亡くなった。彼は東ドイツ出身の俳優だから、監視対象の演出家のことを、おそらく我がことのように感じたことだろう。
3回結婚するような波乱の人生だったが、2回目に結婚したときの妻が、シュタージの協力者だったことが、後で公然の事実となったと言われている。しかし、ミューエは、離婚後はおろか、自身が亡くなるまで、そのことを否定し続けたという。