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大変な興行成績を収め、高い評価を得ている有名な作品。ヒース・レジャーの遺作でもある。そんな「名作」を今さらながら見た。
今まで本作を見なかったのは、これが私の苦手なSFアクションの分野に属する作品だったから。しかし実際に見てみて、自分の思い込みの愚かさに改めて気づいた。外見は確かに子どもっぽい「SFアクション」だが、その背後に人間の本質が描かれている大人の映画だ。圧倒的な興行成績と高い評価はウソではなかった…。
主題は、悪がはびこるゴッサム・シティの治安を、超法規的な立場から守るバットマンと、世界の破滅をもくろむジョーカーの対決。圧巻なのは、カネにも名誉にも目もくれず、人々と苦しみと世界の破滅そのものを自分の悦びとするジョーカー(ヒース・レジャー)の怪演。
世の中の犯罪者の多くは、自分の利得や快楽を獲得するために、結果的に人に危害を加えてしまうような共通点を持っているように思うが、ジョーカーは他人の不幸、破滅そのものを、自分の生き甲斐、享楽としている点で完全に異常。
しかし、よく考えれば誰でもこういう心の闇を持っている側面はある。他人の不幸を無意識のうちに悦んでしまったり、自分を傷つけた者に対して執念深い復讐心を燃え上がらせた経験が全くないという人は稀だろう。ジョーカーは、そんな人間の心の闇をあらわに示した一つの「ひな形」なのかもしれない。
そういう意味で、本作の主人公は、ダークナイト(暗黒の騎士)であるバッドマンではなく、ジョーカーなのかもしれない。バットマンは格好いいヒーローだが、ジョーカーは人間の本質の一部を正直に描いており、私たち普通の人間により近い存在だ。誰でも試練や誘惑によって、このように堕落する可能性があるという警告を発していると言ったら言い過ぎか…。