アメリカン・ヒストリー X   American History X

アメリカン・ヒストリーX [Blu-ray]
ワーナー・ホーム・ビデオ (2011-09-07)
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この映画が高い評価を得ているのは、前から知っていた。しかし、バイオレンス物ということで敬遠していた。しかし今回観てみて、その考えが覆された。たしかにバイオレンス・シーンはある。しかし、アメリカとは何か、人間社会とは何かといった普遍的な問題について、現実的な問題提起をしており、大変クオリティの高い社会派映画だと認識を改めさせられた。

主人公デレクは、筋金入りの白人至上主義者。胸に大きなカギ十字のイレズミを入れ、白人至上主義組織の頭領として、ロスのダウンタウンの一角を仕切っている。黒人、ラテン系、ユダヤ人を、これでもかと罵り、徹底的に差別する。挙句の果てに、自宅を襲った黒人の車上荒らし数名を射殺、惨殺する殺人事件を起こす。しかし、数年後に出所したとき、彼は別人のように真っ当になっていた・・・。

事件前のデレクの言動がすごい。これでもかと、白人以外の人間を虫けら扱いして大声で罵る。とくにデレクの自宅の食卓で繰り広げられる議論(暴論?)のシーンは圧巻。黒人、ユダヤ系のお陰で、優秀な白人が失業する、社会的機会を奪われる、だから虫けらは出て行け!うせろ!消えろ!○×△$#&・・・!

しかし・・・、私はアメリカで暮らしていたことがあるのだが、もし仮にアメリカという国が、日本のような「普通の国」だったら、ある意味でデレクの言動はそんなに異常ではないと思うのである。たしかに、アメリカは移民に対してとても寛容だし、少数派(マイノリティ)を優遇するアファーマティブ・アクションなる「平等」施策を社会に広く適用して、学校や職場では、多数派(白人とかのマジョリティ)を押しのけてマイノリティが優先的に入学、就業する光景が日常茶飯事のように繰り広げられている。これに白人が怒り狂ったとしても、それほど異常なことではないと思う。

しかし・・・、アメリカという国は「移民の国」なのである。国の成り立ちからして、ヨーロッパのいじめられっ子のプロテスタントが、命からがら祖国から逃げ出して創設した国であって、建国後も、政治的自由、経済的機会を人間の普遍的人権として標榜し、それを世界で初めて憲法で法的に保障し、世界中のいじめられっ子を積極的にガンガン受け入れ、人間社会の理想を実現してきた、ある意味で大変マジメで立派な国なのである。

したがって、ここから繰り出される結論の一つは、「アメリカ人」というのは、特定の人種、民族、思想、価値観で規定される概念ではなくて、「アメリカの国籍を取った人」でしかないということだ。その意味で、「アメリカ人」、「アメリカ社会」の定義や概念というのは、今この瞬間も現在進行形で変化しており、それをストップモーションのように止めて保守的に堅持しようとするならば、それはアメリカという国の根本精神を否定する行為にさえなりかねないのである。

そして、もしそういうアメリカ人がいるとしたら、その人は自分がアメリカ人であることに自己矛盾を来たしているとさえ言えるということだ。その意味で、事件前のデレクの言動は、アメリカ以外の国の国民としては一理あったとしても、アメリカ人としては完全に的外れであり、それゆえに破綻を来たしたともいえるだろう。

一方、この映画のテーマは、アメリカとは何かというテーマから、人間社会とは何かという巨大なテーマにさえ肉薄しているような気がする。アメリカという国は、いろいろと批判される国でもあるが、何といっても自由と平等という理想を本気で追求するだけでなく、それを現実に実行(強行)している国でもある。

自由や平等というのは、実際に剥奪されてみないと、その本当の有難みを実感できないかもしれないが、これはまさに人間の基本的人権の中核を成す構成要素と言えるだろう。アメリカは、そんな人間の基本的人権を、極限まで保障しようと試みる試験管ベビーならぬ、試験管国家なのである。

本作は、そんなアメリカの限界と可能性、ひいては人間社会の限界と可能性を描いているような気がした。 ― なんて言ったら言い過ぎだろうか。久々に映画らしい映画を観ました・・・。

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